遺言書の書き方(公正証書遺言編)

前回は、「自筆証書遺言」の解説をしました。
今回は、「公正証書遺言」の解説です。
公正証書遺言は、公証役場で作成する遺言書のことで、自筆証書遺言に比べて費用がかかります。
自筆証書遺言の法務局保管制度ができてから、 実務的には活用する機会は減りましたが、
公証人と立会者が必要なため、法的効力が高く、紛失や改ざんの心配がない など、信頼性が高く、
財産を多く保有されるクライアントからは、公正証書遺言を指定されるケースもあります。
法務局保管制度が新しい制度で良く分からない、昔ながらの公正証書遺言が良いという方のため、
作成方法、必要書類、費用、メリット・デメリット等のポイントを押さえて書きましたので、
是非ご覧ください。

1. 公正証書遺言とは?

公正証書遺言とは、公証役場で、公証人が作成する遺言書のことです。
自分で書いた遺言書を公証役場で検認してもらうと勘違いしている人が多いですが、
遺言者(被相続人)が公証人に遺言内容を伝え、公証人がそれを文章化し、
証人2人の立会いのもとで遺言書が作成されます。

1.1 公正証書遺言のメリット

  • 法的な安全性が高い: 公証人が作成するため、形式の不備で無効になる心配がないです。
  • 紛失・破損・改ざんの心配がない: 公証役場で保管されるため、紛失や改ざんのリスクがありません。(法務局保管制度と優劣はありませんが)
  • 相続手続きの簡素化: 検認手続きが不要なため、相続手続きをスムーズに進めることができます。
    (これも法務局保管制度と優劣はありません)
  • 遺言能力の判断: 遺言には遺言能力という考え方があります。つまり、遺言能力がなければ、遺言の効力が認められない可能性が出てきます(民法第963条)
    公正証書遺言の場合、認知症などで遺言能力が疑われる場合でも、公証人が判断してくれるため、遺言能力に有無に関する争いを防ぐことができます。
  • 専門家のアドバイス: 遺言内容について、公証人から法的アドバイスを受けることができます。
    ただ、これは内容に関する相談はできないので、過度な期待はできません。

1.2 公正証書遺言のデメリット

  • 費用がかかる: デメリットは兎に角にこれにつきます。高めの作成費用や手数料がかかります。
  • 証人の用意が面倒: 公証役場での手続き自体は思っているより時間はかかりません。30分から1時間程度でしょう。面倒なのは、証人2人を用意することです。
    証人が立ち会う、というのは、「内容を見る」ということです。ただの付き添いではありません。
    親族は利害関係がある人はNG、つまり、① 未成年者、②推定相続人、③ 遺贈を受ける者、④ 推定相続人および遺贈を受ける者の配偶者および直系血族等は、証人になることができません。
    公証役場で紹介もしてくれますが、知らない人に遺言内容を見られることを許容しなくてはなりません。
  • 秘匿性が低い: 当然、公証人、証人に遺言内容を知られることになり、秘匿性は低いといえます。

2. 公正証書遺言の作成手順

作成手順は、日本公証人連合会のHPにも記載がありますが、ここでは簡単にまとめます。
詳細を知りたい人は、連合会のHPを見てみると良いでしょう。https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow02

  1. 公証役場へ連絡: 遺言書を作成したい旨を直接公証役場に連絡してOKです。必要書類や費用、予約について、丁寧に教えてくれます。
  2. 必要書類の準備:
    以下のものを揃えましょう。
    (これも連合会HPで詳しく載っていますし、電話でも丁寧に教えてくれます。
     不足や不備があっても、再度赴く手間が増えるだけです)
    ・遺言者本人の3か月以内に発行された印鑑登録証明書
       (印鑑登録証明書に代えて、運転免許証、パスポート、マイナンバーカード
     (個人番号カード)、住民基本台帳カード等でもOK)
    ・遺言者と相続人との続柄が分かる戸籍謄本や除籍謄本
    ・財産を相続人以外の人に遺贈する場合には、その人の住民票、手紙、ハガキ
     その他住所の記載のあるもの。
     法人の場合には、その法人の登記事項証明書または代表者事項証明書(登記簿謄本)
    ・不動産の相続の場合には、その登記事項証明書(登記簿謄本)
     固定資産評価証明書または固定資産税・都市計画税納税通知書中の課税明細書
    ・預貯金等の相続の場合には、その預貯金通帳等またはその通帳のコピー
    ・遺言者が証人を用意する場合には、証人予定者の氏名、住所、生年月日および職業のメモしたものをご用意ください。
  3. 公証役場へ行く: 証人2人と一緒に公証役場へ行きます。公証人に遺言内容を伝えます。
  4. 遺言書の作成: 公証人が遺言内容を整理し、公正証書遺言を作成します。
  5. 遺言書の確認: 作成された遺言書の内容を確認し、間違いがなければ遺言者と承認が署名・押印します。
  6. 遺言書の保管: 遺言書は公証役場で保管されます。

3. 公正証書遺言の費用

これも、連合会のHPが詳しい解説を用意しています。
ここでは、以下の公証人手数料の表だけ確認しましょう。
公正人手数料は、財産の価額によって異なためです。
これを見て高いと思えば、自筆証書遺言を選択しましょう。

3.1 財産価額と費用の目安

財産価額費用
100万円以下5000円
100万円を超え200万円以下7000円
200万円を超え500万円以下11,000円
500万円を超え1000万円以下17,000円
1000万円を超え3000万円以下23,000円
3000万円を超え5000万円以下29,000円
5000万円を超え1億円以下43,000円
1億円を超え3億円以下43,000円の手数料に、
財産価額の超過額5000万円までごとに
13,000円を加算した額
3億円を超え10億円以下95,000円の手数料に、
財産価額の超過額5000万円までごとに
11,000円を加算した額
10億円を超える場合249,000円の手数料に、
財産価額の超過額5000万円までごとに
8,000円を加算した額

4. 公正証書遺言作成の注意点

  • 証人について: 上でも書きましたが、証人には利害関係者 (相続人や受遺者など) を選んではいけません。未成年者も証人になることはできません。実務的には、公証役場での紹介が一般的なようです。
  • 遺留分: 全相続人には、法律で定められた最低限の相続分 (遺留分) が保証されています。
    遺留分を侵害する内容であっても、遺言書は有効ですが、遺留分の請求権が消失することはありません。
  • 相続人の廃除: 相続人を相続から排除する廃除は家庭裁判所に認められた場合のみ可能です。
    結構ハードルが高いので、この人だけには相続させたくない、という事情がある場合、
    法律の専門家に相談しましょう。
  • 財産の特定: 遺言書に記載する財産は、具体的に特定する必要があります。
    「全財産を長男に相続させる」という表現は避けたほうが良いということです。
    「全財産を長男に相続させる」と書いても、遺言書自体が無効にはなりませんが、
    トラブルを避けるためにも財産の特定はしておきましょう。
    (というか、公証人に特定するようアドバイスがあると思います)

まとめ

いかがでしたか?
今回の内容を見て、「逆に法務局保管制度の方がいいな」と思う人が多きがします。
(筆者は、法務局保管制度推しです)
費用が掛かるのと、公証人、証人に内容が見られるのが嫌だということで、
法務局保管制度を選ばれる方が実務的には多い気がします。
秘匿性が高いという理由で、秘匿証書遺言を選ばれる方もいますが、ごく稀な印象です。
これはたぶんですが、公正証書遺言は、保管は自分で管理しなくてはいけないという最大のデメリットがあるからだと考えられます。
そもそも、法務局保管制度ができてからは、秘匿証書遺言の意味合い自体薄れている気がします。。。
今回の内容を参考に、相続人が幸せになるような相続を皆さんが達成されたら、筆者冥利に尽きます。


この記事は、筆者の経験等に基づき、記事更新時点で最新の情報を記載するものです。具体的な手続きや法的な問題に対する対策、また、相続についてさらに詳しい情報や個別のケースに関するアドバイスが必要な場合は、専門家に相談することをお勧めします。