遺言書の書き方(自筆証書遺言編)

前回は、簡単に遺言書の書き方の基本的な事項をまとめました。
今回は、その中でも自筆証書遺言の書き方を掘り下げたいと思います。
「弁護士、税理士、司法書士等に頼むのは、コストや手数料が気になってちょっと。。。」という方は非常に多いと思います。
お金がたくさんあればプロに頼むのが確実だし、楽であることは間違いないのですが、
余裕のある方ばかりではないことは、実務を携わっていても日々痛感しています。
そこで、そんな方向けに、安く、比較的安心な「法務局保管制度を活用した自筆証書遺言」の作成方法をご紹介したいと思います。

1. 自筆証書遺言のメリット・デメリットの復習

まずは前回のおさらい、復習も兼ねて、自筆証書遺言のメリット、デメリットをしっかり確認しましょう。

1.1 メリット

  • 費用がかからない: 公正証書遺言のように高い手数料がかかりません。
  • 手軽に作成できる: 紙とペンと判子さえあれば、作成できます。
  • 秘密が守られる: 公正証書遺言のように、公証人や証人を立てる必要がないので、遺言内容を知られることなく、作成できます。

1.2 デメリット

  • 形式の不備で無効になる可能性がある: 法律で定められた要件を満たさないといけません。難しくはありませんが、法律上の形式要件を確認して作成してください。最悪、遺言書が無効になる場合があります。
  • 紛失・破損・改ざんの恐れがある: 自宅で保管するため、紛失、破損、改ざんのリスクがあります。(これをカバーするのが法務局保管制度です)
  • 発見が遅れるまたはされない可能性がある: 遺言書の存在や保管場所を家族に伝えていないと、発見が遅れる、または最悪誰にも発見されないということになる可能性があります。

2. 書いてみよう自筆証書遺言

以下の手順に従って自筆証書遺言を書いてみましょう。

2.1 ステップ1:準備

  • 用紙: 白紙の紙を用意しましょう。罫線が入っていてもOKです。無難に、A4サイズの白紙が良いでしょう。
  • 筆記具: 無難に黒のインクを使用しましょう。青でも良いですが、あえて青を使う意味もないと思います。ペンはボールペン、万年筆でOKです。鉛筆や消せるペンは使用してはいけません。
  • 印鑑: 遺言者本人の判子で押印しましょう。実印である必要はなく、認印でのOKとされていますが、印鑑証明書はあった方が安心です。普通、認印に印鑑証明を取ることもないと思うので、ここも無難に、実印+印鑑証明書のセットでいきましょう。

2.2 ステップ2:本文

遺言書には、以下の内容を記載します。

  • 相続財産の処分: どの財産を誰に相続させるのかを具体的に記載します。
    • 不動産: 所在地、地番、家屋番号などを明記(登記事項証明書も用意しておきましょう)
    • 預貯金: 金融機関名、支店名、口座番号、口座名義などを明記
    • 株式: 証券会社名、口座番号、銘柄名、株数などを明記(証券会社の残高証明書を用意しておきましょう)
    • その他の財産: 自動車、貴金属、骨董品など、可能な限り詳細に記載
      (当たり前ですが、貴金属、骨董品は持ち逃げされる可能性があるため、金庫に保管する等、資産の保全をしたうえで相続財産として明記しましょう)
  • 遺言執行者の指定: 任意ではありますが、遺言の内容を執行する人を指定しておいた方が良いと思います。

記述のポイント

  • 明確な表現: 曖昧な表現はNG。誰が見てもわかるように個別具体的に記述しましょう。
  • 誤字脱字: 誤字脱字は訂正印で修正します。修正液や修正テープは使用できません。
  • 加筆: 加筆する場合は、その箇所に署名と押印をします。

2.3 ステップ3:氏名と日付

遺言書を作成した年月日を記入します。

  • 西暦・元号: どちらを使用しても構いません。
  • 正確な日付: 作成日を正確に記入します。

遺言者本人の氏名を記入します。

  • 戸籍上の氏名: 戸籍上の氏名と正確に一致している必要があります。略字はだめです。

2.4 ステップ5:押印

遺言者本人の印鑑を押印します。

  • 同一の印鑑: 遺言書全体を通して、同一の印鑑を使用します。先にも書きましたが、実印押印+印鑑証明書のセットでやりましょう。印鑑証明書があった方が、後々の争いの種が減るので安心です。

3. 自筆証書遺言のサンプル

簡単なサンプルですが、仕上がりは以下のような感じになると思います。

遺言書

令和6年12月11日

東京都〇〇市〇〇町一丁目1番100号
ビーバー 花子

私ビーバー花子は、次のとおり遺言します。

1. 私の所有する東京都〇〇市〇〇町一丁目1番100号の土地および建物を、長男のビーバー一郎に相続させる。
2. 私の預貯金口座 (〇〇銀行〇〇支店 普通預金口座番号 ×××××××) の残高を、次男のビーバー次郎に相続させる。
3. 私の所有する自動車 (トヨタ プリウス 車体番号 ××××××××××) を、三男のビーバー三郎に相続させる。

以上

ビーバー花子 (印)

4. 法務局保管制度

以下、法務局保管制度の解説です。とても大事な制度だと筆者は考えています。先に書きましたが、自筆証書遺言は、自宅で保管すると、紛失、破損、改ざんの恐れがあるのですが、これを補うための制度であり、自筆証書遺言でこれを使わない手はないと思います。
詳しく知りたい方はこちらも読んでみると良いでしょう。https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html
以下、概要と重要と筆者が感じところを中心にまとめています。

4.1 法務局保管制度の概要

法務局保管制度とは、 自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)に預け、原本と画像データを長期間保管 してもらう制度です。この画像データで保管するというのが非常にポイントです。閲覧等も用意になり、大変便利だと思います。

4.2 メリット

  • 安全な保管: 法務局が責任を持って保管するため、紛失、破損、改ざんの心配がありません。
  • 相続手続きの簡素化: 遺言者が亡くなった後、相続人は法務局から遺言書の写しの交付を受け、家庭裁判所の検認手続きを経ずに相続手続きを進めることができます。
  • 費用が安い: 保管手数料は1通につき3,900円と、公正証書遺言を作成するよりも安価です。

つまり、良いことばかりなのです。今回は、すべて自分で遺言書を作成することを前提に書いていますが、弁護士や税理士のアドバイスをもらいながら遺言書を作り、その後、法務局保管という方法も良いと思います。コストの削減と、安心して遺言できるという、メリットを両取りできます。

4.3 保管期間

  • 原本: 遺言者死亡後50年間
  • 画像データ: 遺言者死亡後150年間

4.4 保管手続きの流れ

  1. 保管場所の確認: 遺言者の住所地を管轄する法務局を確認します。
  2. 予約: 法務局に電話またはオンラインで予約します。(予約必須です!
  3. 必要書類の準備:以下のものを準備しましょう
    申請書(こちらからダウンロードできますhttps://www.moj.go.jp/MINJI/06.html なお予約時間前に作成しておく必要があるので注意してください
    遺言書
    住民票
    顔写真付き本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカード等)
    手数料の3,900円
  4. 法務局へ提出: 予約した日時に法務局へ行き、必要書類を提出します。
  5. 手数料の支払い: 保管手数料を支払います。

無事に手続きが終わると「保管証」が発行されます。「保管証」は再発行できないので注意です。

4.5 遺言書の閲覧・返還

  • 閲覧: 遺言者は、保管されている遺言書を閲覧することができます。原本または、モニターでデータの閲覧が可能となります。原本の閲覧は、原本を保管している遺言書保管所のみで可能ですが、モニターによる閲覧は全国どこの遺言書保管所でもできるため、とても便利です。
    なお閲覧には手数料がかかります。
    ・モニター閲覧:1回 1,400円
    ・原本閲覧:1回 1,700円
  • 返還: 遺言者は、保管の申請を撤回し、遺言書の返還を受けることができます。

4.6 遺言者死亡後の手続き

遺言者が亡くなった後、相続人は以下の手続きを行うことができます。

  • 遺言書情報証明書の交付: 遺言書が法務局に保管されていることを証明する書類の交付
  • 遺言書の写しの交付: 遺言書の写しの交付

他にも、遺言書保管通知を関係者に送ること等もできるため、とても考えられた使い勝手の良い制度だと思います。

5. 遺言書の手数料の比較

自筆証書遺言、法務局保管の自筆証書遺言、公正証書遺言の手数料の簡単な比較表を作りました。
公正証書遺言は、遺言の目的財産によって変動するので、詳しく知りたい方はリンク先をご参照ください。https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow02/2-q13

遺言書の種類作成費用手数料メリットデメリット
自筆証書遺言なしなし手軽に作成できる形式の不備で無効になる可能性がある
自筆証書遺言
(法務局保管)
なし3,900円/通安全に保管できる法務局へ行く手間がかかる
公正証書遺言約5万円~5,000円~数万円法的効力が高い手間+費用がかかる

6. 自筆証書遺言の注意点

自筆証書遺言の作成するにあたり、良く聞かれること、注意したほうが良いことをまとめてみました。
繰り返し書かれていることもありますが、ご容赦ください。

  • Q. 遺言書に書く際に使ってはいけない筆記具はありますか?
    • A. 鉛筆や消せるペンは使用できません。
  • Q. 遺言書を書き間違えてしまった場合はどうすればよいですか?
    • A. 修正液や修正テープは使用できません。二重線で消して遺言書の押印に使う判子と同じ判子で訂正印を押してください。
  • Q. 遺言書はパソコンで作成できますか?
    • A. いいえ、自筆証書遺言は全文を手書きする必要があります。そもそも「自筆」遺言なので。。。財産目録はパソコンで作成してOKです。
  • Q. 目的財産が多いときはどうすれば良いですか?
    • A. 財産目録を作成して添付します。作成パソコンでも良いですが、財産目録に自署、押印(遺言書と同じ判子で)する必要があります。

8. まとめ

いかがでしたでしょうか?自筆証書遺言+法務局保管は、コストをかけず、安全に保全されるため、とても良い制度だとお感じいただけたら、少しでも伝えたいことが伝わったかなと思います。
お客様にも、自筆証書遺言+法務局保管を積極的におすすめしています。次回、公正証書遺言の解説もしようと思いますが、かなり面倒な手続きが多いという印象です。
検認不要、遺言書の保全も図れる、ということであれば、自筆証書遺言+法務局保管のセットで十分だと思いますので、是非参考にしてください。


この記事は、筆者の経験等に基づき、記事更新時点で最新の情報を記載するものです。具体的な手続きや法的な問題に対する対策、また、相続についてさらに詳しい情報や個別のケースに関するアドバイスが必要な場合は、専門家に相談することをお勧めします。